『ほんまでっか!?~大阪と中国が似ている件~』
中国で留学生活を送っていた時、同じ日本からの留学生で大阪出身の友人に驚かされたことがあります。あの頃の私は初めての中国で、見るもの聞くもの全てが新鮮で、拙い中国語での会話から感じ取った中国人との言葉以上に高い文化や考え方の壁、違いに日々驚きの連続でした。ところがその大阪出身の友人は一緒に屋台でお酒を飲みながらしみじみとこうつぶやいたのです。「なんか懐かしいなあ。ホッとするわ。」日々驚きと刺激の多い毎日を送っていた私には一体何が“懐かしく”また“ホッとする”のかさっぱり分かりません。聞いてみると彼女は大阪で生まれ育ち、その後他の地方で働いていて今回初めて中国に来たそうです。中国人と接する中で言葉は違えど何か根底にある感じ方や考え方、気質のようなものが彼女の生まれ育った町“大阪”の人々に似ていると感じ、ホームシックではなく“懐かしさ”を感じたとのことでした。
彼女の感じたこの“大阪と中国が似ている”という感覚は、意外と多くの人が持つ共通認識のようです。試しにインターネットの検索で「大阪」「中国」と打ち込むと「似ている」というワードが上位に出てきます。私自身両親が近畿地方出身で、大阪には何度も訪れたことがあります。先の彼女の言葉を聞いて以来“大阪と中国が似ている”のはこういうところかもしれないとふと感じることがあります。今回はそんな個人的な観察をいくつかとり上げてみたいと思います。
「儲かりまっか?」「ぼちぼちでんな。」サラリとできるお金の話
以前テレビの番組で、「お宅の家賃はいくらですか?」と突然聞かれて答えるかという実験を東京と大阪で行っていました。東京の人は家賃を聞かると戸惑う人が多く、大半の人は答えませんでした。一方大阪では戸惑うことなく答え、中には自分がいかにお得な物件に住んでいるかを熱弁する人もいました。大阪では挨拶がわりに「儲かりまっか?」と尋ねたり、新しい洋服を着ていると「それなんぼやった?」と聞かれたり、お店で値切ってみたりとお金の話を気負わずにできる印象があります。中国でも友達に「工资多少?」(gōng zī duō shǎo 給料いくらもらってるの?)「这衣服多少钱?」(zhè yī fu duō shǎo qiánその服いくらだった?)などと聞かれることは日常茶飯事ですし、お店でも「便宜一点吧。」(pián yi yì diǎn baもっと安くしてよ。)などと普通に値切り交渉をします。また中国の特に南方では商売が盛んなため、挨拶のように「生意好吗?」(shēng yì hǎo ma景気はどうですか?)と声を掛けたりします。これが日本の他の地域だとあまり直接的なお金の話ができない雰囲気があります。相手が戸惑ったり、構えたりするかもしれないからです。会話の中で抵抗なく、時には冗談を交えながらサラリとお金の話ができること、これは中国人と大阪人の共通点と言えるかもしれません。
パワフルなおばさまたち
大阪のおばちゃんと言えば髪を紫色に染め上げ、ヒョウ柄の服を着て、“飴ちゃん”を配る・・・ような人は実際そんなに多くないかもしれません。しかし他の地域のおばさまたちに比べて、少し派手な服が好きで、初めて会う人とも気さくに話し、情が厚く、明るくてエネルギッシュなおばさまが多いことは確かです。中国でもそんなパワフルなおばさまたちが活躍しています。留学期間中、中国語の上達のためにも積極的に出会う中国人と会話するようにしていました。市場や、商店、公園、バス停などあらゆる機会に勇気を出して話しかけるのですが、中国のおばさまたちは明るく気さくに答えてくれる人が多く、こちらが留学生と分かるや「どこの大学?」「何歳?」「日本人って普段から和服着ないの?」等々質問攻めにされることもよくありました。初めは声の大きさと直球の質問に戸惑うこともありましたが、次第にその人懐っこさと面倒見の良さにホッとさせられ、ホームシックから立ち直る助けになりました。
食い倒れの街と4000年の食文化
大阪と言えば“食の街”でもあります。お好み焼きにたこ焼き、串揚げにホルモン焼き・・・と有名な大阪グルメはたくさんあります。元々この“食い倒れ”という言葉は「京都の着倒れ、大阪の食い倒れ」から来ていて、京都の人は衣服にお金をかけるのに対して大阪の人は飲食にお金をかける、つまり飲食の質を重視する文化であることを示す言葉です。実際大阪には安くて美味しいものが本当にたくさんありますし、そこに住む人たちの食への愛も非常に強い印象です。中国も言わずと知れた世界一、二を争う食文化の国です。4000年という長い歴史もあり、食材の種類も、調理方法も豊富です。またこれは中国で過ごしてみて肌で感じたことですが、中国人の食への愛もまた強いと思います。人によっては「吃饭了吗?」(chī fàn le maご飯食べた?)が挨拶代わりです。日本人の場合、例えば仕事が忙しい時などは昼食をとらなかったり、少しパンをかじるだけで済ましてしまう人も多いです。中国でその話をすると大抵の人は「信じられない!」と言います。どんなに忙しくても食事はしっかりと食べたいのだそうです。そんなところも大阪との共通点かもしれませんね。
赤信号は気を付けて進め!?ちょっと危ない交通事情
「青は進め、黄色も進め、赤は気を付けて進め」なんて冗談で言われていますが、大阪の町を走る車は少々運転が荒っぽいことで知られています。本当に赤信号で突っ込んでくることは少ないと思いますが、確かに都道府県の交通事故発生件数は毎回上位に入っています。中国でも車の運転の荒っぽさにひやひやさせられた経験は何度もあります。ウィンカーを出さずに曲がったり、明らかにスピードを出し過ぎた車が目の前を通り過ぎることがよくあるため、道を歩く時は普通以上に注意していたように思います。大阪の県民性として“せっかちな人”が多いと言われていますが、中国もそういうところがあるかもしれません。
今回は大阪と中国が似ていると言われる理由についていくつか考えてみました。これはあくまで個人的な観察と勝手なイメージによるものです。もちろん大阪にもおとなしくてシャイでのんびり屋だという人もたくさんいます。同じように中国にも声が小さい人、お金の話が苦手な人はたくさんいます。私自身中国で生活してみて、元々持っていた中国人のイメージについて、「やっぱり思っていた通りだ。」と感じる部分と「予想と全然違う!」と驚く部分の両方があり、それらを日々発見していく作業がとても楽しかったです。
新しいコミュニティに入り、新しい出会いがあり、そこの文化を理解していく中で、新鮮な驚きや自分の生まれ育った場所への再発見があります。ぜひもっと多くの人が中国語を学び、中国人と交流することでその楽しさを体験できたらと思います。