『間違いやすい中国語文法を習得しよう!その1~方向介詞“向・朝・往”~』
同じ漢字文化圏である中国と日本ですが、同じ漢字なのに何だか“通じない、分かりにくい”ところは結構あります。これは中国人からしても同じ事です。「日本語は勉強すればする程難しくなる」「越学越难」と中国人からよく聞きます。
一例ですが、過去に中国の友人が日本語で「昨日、私学校いったよ。」と話してくれました。一生懸命日本語を覚えてくれたんだと感動しつつ、少しだけ「ん?」と思ってしまいました。そう、その言葉には“助詞”が抜けているのです。意味は十分伝わりますが、厳しく考えると「昨日、私は学校にいったよ。」というのが正しい日本語の文法ではないでしょうか。
この様な考え方は、私たちが中国語を習う時でも同じだと思います。中国語と日本語の大きな違いは、日本語の場合は「主語+目的語+動詞」であり、中国語では「主語+動詞+目的語」の語順にあります。そうです、日本語でいう“て、に、を、は”をどう表現・理解すれば良いのかも大切なのです。
この「昨日、私は学校にいったよ。」を中国語にすると、「昨天,我去学校。」となります。たしかに助詞らしきものは見当たりません。こんなことから日本語を習いたての中国人は「昨日、私学校いったよ。」と言ってしまうのかもしれません。では次の例文はいかがでしょうか。
「真っすぐ行って下さい。」
これを中国語にした場合「请前面走」では不正解です。正しくは「请往前走。(qǐnɡ wǎnɡ qián zǒu)」となります。
ここで出る「往」とは何?と思う方もいらっしゃると思います。これが日本語の“て、に、を、は”に近いものとなります。
実は「请往前走。(qǐnɡ wǎnɡ qián zǒu)」を直訳すると「前に向かって行って下さい。」となります。この方向を示す「~に」という“方向介詞”(方向を示す助詞のようなもの)が中国語の文章には入ります。 “方向介詞”は3つ存在し、それを“方向介词ー向朝往”(fānɡxiànɡjiècí-xiànɡ、cháo、wǎnɡ)といいます。
少し難しいと思うかもしれませんが、HSKにも実際に出題されます。なのでこのコラムを読んで「たしかこんな事書いてあったな~」と思いだして頂けると幸いです。
この方向介词の少し難しいところは使い方です。日本語の“~に”と方向を示す時、中国語の“方向介詞-向、朝、往”のどれでも使って良いのかというと、そうではないのです。
実際に以下の様な例題を考えてみました。ぜひご自身で文章を訳せるかチャレンジしてみて下さい!
1.彼らは遠方を眺めています。
2.クジャクは美しい羽根を広げて、旅行者にみせている。
(美しい羽根-美丽的翅膀/広げて-张开)
3.私は彼にウィンクした。(ウィンクした-眨了眨眼)
4.ご家族のみなさんにどうぞよろしく。(どうぞよろしく-问好)
5.彼は学校に100万元寄付した。(寄付した-捐了)
如何でしたでしょうか?ちなみに中国語に訳すと以下の様になります。
1.他们(向/朝/往)远处看。
2.孔雀(向/朝)游客张开美丽的翅膀。
3.我(向/朝)他眨了眨眼。
4.请替我(向)你家里人问好。
5.他(向)学校捐了一百万元。
1は動作の移動する方向なので、「向、朝、往」どれでも使えます。
2は動作の示す方向なので、「向、朝」のいづれかとなります。
3は人に対してなのでこれも「向、朝」のいづれかとなります。
4は発言をする対象なので、「向」のみとなります。
5は何かを与える対象なので、こちらも「向」のみとなります。
何となくお分かりになられた方もいらっしゃるかと思います。使う時の“コツ”があるのです。この問題の答えを表にしてみると以下のようになります。
介 词 意 义 | 向 | 朝 | 往 | |
(1) | 动作的移动方向 | ✓ | ✓ | ✓ |
(動作の移動方向) | ||||
(方位词、方位短语、处所名词) | ||||
(2) | 动作的指向方向 | ✓ | ✓ | × |
(動作の指し示す方向) | ||||
(无处所以名词) | ||||
(3) | 动作的指向对象(人称代词) | ✓ | ✓ | × |
(動作の対象) | ||||
(4) | 动作的言谈对象 | ✓ | × | × |
(動作の発言対象) | ||||
(5) | 动作的给予对象 | ✓ | × | × |
(動作の与える対象) |
つまり、「向」は動作の方向、対象にも使えるものです。また、「朝」は相手に面と向かっていれば、動作を伴わなくても使えるのです。そして「往」は対象と面と向かっているかは関係なく、動作を伴うかによって使えるものとなります。
そして日本語でいう「~に」という使い方では、方向ではなく「~に(対して)」という意味合いで使う事もありますよね。中国語から言えばこの“対”はあくまでも“対象”を言っているので、ここでお話している“方向介詞”とは少し違ってきてしまいます。一先ずは「私は彼に言った。」「我对他说」などの場合は使えますので、先ずは覚えておいてください。
話は戻りますが、ここでこの“方向介词-向朝往”を典型的に使う文章があります。私が思うこの“方向介词-向朝往”を必ず固定表現として使う場面をそれぞれご紹介します。
■「向」について
方向を表現するものとして便利な“向”ですが、特に中国の街中で「向雷锋同志学习”(xiànɡ léifēnɡ tónɡ zhìxuéxí)」「雷峰に学べ」というスローガンを見かけることがあります。
皆さんは“雷锋”という人物をご存知でしょうか?中国人との会話でも出てくるので、覚えておいて損はありません。雷锋とは、中国人民解放軍の模範兵とされる人物です。22歳という若さで亡くなっていますが、中国では有名な人物です。彼の死後、毛沢東などの共産党指導者の言葉を引用した日記などが発見され、軍人としての理想的なモデルとして取り上げられました。そこからこの “向雷锋同志学习”が街中の壁新聞に書いてあったりします。
例えば生活の中で見習うべき人を見つけた時、「我们要向他学习。」と使ってみると良いかもしれませんね!
■「朝」について
“朝”(cháo)についてですが、お部屋を借りる場面などがイメージしやすいかもしれません。ぜひ使ってみて下さい。
「この部屋は何向きですか?」
“这个房子什么方向?”
(zhè ɡè fánɡ zǐ shén me fānɡ xiànɡ)
「この部屋は南向きです。」
“这个房子朝南。”
(zhè ɡè fánɡ zǐ cháo nán)
不動産屋さんと大家さん(房东)(fánɡdōnɡ)と借主の間では、結構起こり得る会話だと思います。その時この“朝”が分かっていると、会話も非常に分かりやすくなります。中国でも南向き“朝南”のお部屋は良しとされているので、不動産屋さんもアピールしてきます。お部屋を借りるときには是非使ってみて下さい。“この人中国語が出来る日本人だ”と仲良くなれるかもしれませんよ!
■「往」について
“往”(wǎnɡ)については、これは今の日本で使えるかもしれません。
最近では“爆買”なんて言葉があり、中国人が日本国内で沢山の買い物をしていくニュースを見たりします。特に銀座や新宿はまるで中国、上海の南京东路(上海のメインショッピングストリート)のようになっています。そこでは中国人が携帯片手にショッピングをしている光景もよく見かけるのではないでしょうか。
そしてよく道を聞かれることがあります。ときには中国語で。
「三越にはどう行くの?」
“三越百货店怎么走?”
(sān yuè bǎi huò diàn zěn me zǒu)
「まっすぐ行って下さい。」
“请一直往前走。”
(qǐnɡ yì zhí wǎnɡ qián zǒu)
また、駐在先などで会社で取引先がこちらの会社に来てもらう時に、よく電話がかかってきたりします。
「あなたの会社はどうやっていくの?」
“你的公司怎么走?”
(nǐ de gōngsī zěnme zǒu)
「地下鉄の5番出口をでたら、まっすぐ行って、一つ目の角を曲がってください。」
“你出了地铁5号出口后,请一直往前走,到第一个拐角右拐。”
(Nǐ chūle dìtiě 5 hào chūkǒu hòu, qǐng yīzhí wǎng qián zǒu, dào dì yī gè guǎijiǎo yòu guǎi)
ぜひチャンスだと思って、この“往”を使った回答をしてみて下さい。この場合“向”も間違いではありませんが、中国人は結構この“往前走”を使うので、固定表現として覚えておくといいと思います。日本語につられて、“请前面走”とは言わないようにしたいものです。
なぜならこうした“方向介詞-向、朝、往”を使えれば、“この人中国語をよく勉強しているな”なんていう印象にも繋がると思います。HSKの“写作”(作文)対策として良い効果があると思います。
確かに、助詞などは分からなくても文章は理解できるかもしれません。ですがそれは初級までの考え方です。HSKでは3級あたりから、聞き取り問題の文章の中にこの方向介詞“向・朝・往”が出てきています。理解していくのに時間は掛ると思いますが、典型的な表現から習得していくのをお勧めします。
もしも日常会話で適切な方向介詞“向・朝・往”が出てこない場合は、 “えーい万能の“向”を使ってしまえ”ぐらいの感覚で話してみましょう。とにかく会話にチャレンジするという事も大切です。
そうすると、中国語の先生であったり相手の中国人は、正しい表現で言い直してくれます。トライアンドエラーを繰り返して行く事で適切な表現を覚え、聞き取る力も養えるはずです。